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いつ・どこから・なぜここに？

自然が大好きという香川県生まれの金子さん。子どもの頃は田舎にある祖父母の家を訪れ、野山で遊んでいたそう。そんな金子さんが就農を意識しだしたきっかけは、学生時代の農業のアルバイト。土の温もりに触れ、米や野菜が育っていく姿を見、農業の尊さを実感したのだとか。「1年半続けるうちに、農家になりたいと思うようになりました。その後、一旦は会社員になったのですが気持ちは変わらず、家庭菜園をしながら『いつか、いつか……』と思い続けていました」。

農業への思いを捨てきれなかった金子さんに転機が訪れたのは2020年のこと。福岡県出身の奥様との結婚だ。「遠距離恋愛だったので、どちらかが引っ越さなければなりませんでした。どうせなら就農したいと妻に打ち明けたところ、迷わず背中を押してくれました」。

移住・就農の地を探すため金子さんはとある就農イベントに参加。そこで偶然山口市の担当者と出会った。「山口市阿東の梨農家さんが高齢のため事業承継してくれる人を探していると聞き、すぐにつないでいただきました。果樹は長い時間をかけて大切に育てられます。ということは、その分園主さんの想いも込められているはず。その想いごと引き継げるなんて、すごく素晴らしいことだと思ったんです。しかも、山口市なら香川県と福岡県の中間あたりなので立地的にもちょうど良かったですし、何より、野菜より果物の方が好きなので育てがいがあると思いました」。その後、山口市の「やまぐち農業体験ツアー」に参加し、現地に足を運んだ金子さんは梨園を見学し、前の園主ともしっかり話をした。

「1回目は1人で、2回目は妻も一緒に山口市へ行きました。山口市という場所もそうですが、園主さんの人柄もとても良く、加えて山口市は就農サポートが手厚いこともわかりました。ここなら安心して就農できると思い、事業承継を決めました。一から苗木を育てることを考えたら、すぐに収穫できる状態で農業が始められるわけですから、本当に幸運だったと思います」。

現在の状況・感想

防府市にある農業大学校で1年間担い手養成研修を、その後、長門峡梨組合で1年間現地研修を受けた金子さんは、2023年4月に梨園を承継。「実際にやってみると1人は大変。前の園主さんに助けてもらいながら、毎日とにかく頑張っています」。

梨農家が忙しいのは収穫時期だけではない。晩秋から春にかけては剪定や誘引、花が咲き始めると摘花、その後、人工授粉をして今度は摘果…と作業は続く。「一年中何らかの作業がありますが、自分の思うようにできるのでストレスはありません。何より大好きな自然に囲まれて働けるのが幸せ」。

梨狩りや加工品開発など少しずつやりたいことも見えてきたという。「阿東の梨のおいしさ、阿東の素晴らしさをもっと広く伝えたい。将来的にはカフェやイベントスペースを作って、たくさんの人を阿東に呼び寄せたいです」。梨農家1年生の金子さんの挑戦は始まったばかり。